2016年6月29日(水)〜7月3日(日)11時〜18時 ※初日は14時から 最終日は17時まで ※7月2日(土)16時〜18時 ギャラリートーク開催
銀座レトロギャラリーMUSEE(ミュゼ)1階ギャラリーA
開催趣旨
平下英理(1985〜)は、神奈川県茅ヶ崎を拠点に活動する画家です。東京造形大学で油画を学び卒業後、明快な色彩と大胆なコンポジションを特徴とする作品を手がけてきました。絵画制作のプロセスを「生への希求」であると考え、予定調和を超えたその先の領域に踏み込むことを模索しています。
トーキョーワンダーウォール入選作品展2015(東京都現代美術館)をきっかけに、銀座レトロギャラリーMUSEEで、初夏に相応しい新作を発表します。茅ヶ崎に残る歴史的建造物「旧南湖院」、そこで最期を過ごした文化人たちの見た景色をモチーフに作品を展開します。どうぞご期待下さい。
作家挨拶
2016年初夏、東京銀座で年月の重みをもった近代建築で展示するにあたり、過去の遺産を主題にしました。
私の住処である、茅ケ崎に残る明治32年に建てられた木造建築「旧南湖院」を見つめます。
ここは、大正期の急速な近代化をすすめた東京からも、多くの患者を迎え、東洋一のサナトリウムと
称されました。国木田独歩が最期を迎えた場所でもあります。今茅ケ崎をみつめる私の視点と、サナトリウムで
過ごしていた作家たちがこの景色に向けていた眼差しが、どこかで共鳴できるのでしょうか。
それを私は画家として探っていきます。その鍵となるのが唯一残されている「旧南湖院」です。
そこから、この地によって呼び起された「生への希求」を描きたいと思います。
平下 英理
「忘れえぬ景色」

「スナッフ」(2016) 23×27.5センチ キャンパスにアクリル、油彩
嘗てここには、海岸線から砂丘が広がり、防砂林である松の陰から赤い風車や白妙の洋館の屋根、巨大な給水タンクが隠見する景色が広がっていた。湘南地方を療養転地として知らしめたサナトリウムがあったのは100年近く前。今や当時の趣きを残すものは、第一病舎であった木造洋館一棟だけである。いたんだ木肌はひび割れ、よごれた外壁は塗り替えられて、何度も補修されては辛うじて今在る建物。
全てが終わってしまった跡、時代に取り残されたままの、その所在の無さをどのように受け止めればいいか私には分からなかった。憶えのない記憶を感じ取ることは難しい。
でも、このサナトリウムで最期を迎えた国木田独歩が構想していた作品「砂丘」、片上天弦「茅ヶ崎日記」や前田夕暮の詠んだ短歌をこの場所で読むと、その息遣いを感じて共有できるものがあるように思う。
風車赤く風に光り、一日ぢゅうカラカラと空で笑ってゐた
赤い風車の下の、敏感な検温器のそばで、わが子さよりのやうに寝てゐる
東洋的な感傷をそそる撫子の路と療養所の白い建物のかげ
ぬれたコンクリート廊下に空がうつり、涼しすぎる海浜療養所の朝かげ
日は林に照り、日は砂にかげり風、風車に光る午前午後
秋草の紫のかげふかい夕なぎの砂丘で、何をわが子に話したことか
前田夕暮(「南湖院と高田畊安」川原利也著 中央公論美術出版 より)
生きた感覚として、作品が肉体にしみわたるような感覚だ。景色も価値観も様変わりしてしまったはずだが、五感に響くものは今も近いのではないか。作品とはそういうものであるし、だからこそ形あるものに現し、遺してきたはずである。それゆえに、作家が病床において辛苦ののちに断念された、表出されなかった作品の事も想う。
現在、あの頃の海風に刻まれた砂丘も、感情を代弁した赤い風車も、もうここには無いのだ。
作家経歴
平下 英理
1985年 神奈川県生まれ
2009年 東京造形大学 絵画専攻 卒業
グループ展
2007年「THE SIX」横浜赤レンガ倉庫
2008年「ワンダーシード2008」トーキョーワンダーサイト渋谷
「FOUR+SEVEN」exhibit Live&Moris Gallery
「KOSHIKI ART EXHIBITION 2008」甑島市内
2010年「VOCA2010」上野の森美術館
2014年「SQ117」 Gallery惺SATORU
2015年「トーキョーワンダーウォール入選作品展2015」東京都現代美術館
「New Artists 2015」 Gallery Jin Projects
個展
2009年「ストレンジ&チャーム」Gallery b. Tokyo
展覧会の様子
本日2016/6/29(水)14時より平下 英理 展 「忘れえぬ景色」がスタートしました。神奈川県茅ヶ崎を拠点に活動されている画家、平下英理さんによる7年振りの展覧会です。今も茅ヶ崎に残る歴史的建造物「旧南湖院」。国木田独歩、前田夕暮らが療養し最期を迎えた東洋一のサナトリウムを舞台に、そこから浮かぶ記憶、そして景色を表現した10作品(アクリル、油彩8点とドローイング2点)をご覧いただきます。サナトリウムで紡がれた文学から着想を得たという(蛍光色で新鮮味を帯びた)中国語の文字。今はない赤い風車の影。時間軸を超えた文化人達の記憶を探る展示となりました。 2016/7/2(土)には、作家を囲んでのパーティー(ギャラリートーク、入場無料)を開催し、制作意図を中心に語っていただきます。お気軽にお越しください。
平下英理展、開催されたギャラリートークの様子です。 暑い中でしたが、多くの方々にお越しいただきました。作品制作の意図、技法など、作家の平下さんより丁寧に解説して頂きました。 メインの作品には、実は3つの時代(明治、戦時中、現代)が3分割されて描き込まれています。戦時中は、空撃のターゲットにされないよう、そばの松林に似せた迷彩模様が外観に施され ていた様子が、画面右端に表現されています。重層的に、時間軸を一枚に収めた手法に、皆さん驚かれていました。