開催趣旨

 

 13世紀から14世紀にかけてイタリアで活躍した詩人・政治家ダンテ・アリギエーリ(1265-1321)による長編叙事詩『神曲』は、聖書に次ぐ世界最大の古典と言われ、美術、文学、音楽とさまざまな創作者の最大の発想源となってきました。同時代のボッカチョをはじめ、ゲーテ、アレクサンドル・デュマ、美術ではシスティーナ礼拝堂天井画を描いたミケランジェロから、ウィリアム、ブレイク、現代のダリ、音楽ではチャイコフスキー、リストなど多数の芸術家が神曲からインスピレーションを得て、作品を制作しています。

 聖書に天国や地獄の記述はありましたが、それを具体的に言葉で描写したのはダンテが初めてでした。ダンテが『地獄篇』を著した14世紀初頭以降、キリスト教美術において天国や地獄が盛んに図像化されるようになり、後世のあらゆる分野に多大な影響を及ぼします。ちなみに、現代でも2016年公開の映画『インフェルノ』(トムハンクス主演)でも重要なモチーフとして取り上げられています。

 ダンテの『神曲』は、イタリアでの政争と自身のフィレンツェ追放、そして永遠の淑女ベアトリーチェへの愛の存在を背景に描かれたとされる叙述詩で、地獄篇、煉獄篇、天国篇の 3 部から構成されています。

 物語は、ダンテ自身が、ユリウス暦 1300年の聖金曜日、暗い森の中に迷い込む場面から始まります。古代ローマの大詩人ウェルギリウスと出会い導かれ、地獄、煉獄、天国の遍歴をスタート。地獄の九圏を通り、地球の対蹠点にある煉獄山にたどり着きます。煉獄山を登るにつれて罪が清められていき、その頂で、永遠の淑女ベアトリーチェと再会。ベアトリーチェは実際にダンテが幼い頃から敬慕し、愛するも拒絶。24歳の若さで夭折し、永遠の淑女として生涯賛美することを誓った、彼女の導きでダンテは天界へ昇天し、各遊星の天を巡って至高天(エンピレオ)へと昇りつめ、神の域に達するという壮大な物語になっています。

 ダンテの時代から約500年後の19世紀、『神曲』世界の重要な場面を、140枚近くの木版画で表現したのがまだ年若いギュスターブ・ドレ(1832-1888)でした。彼の挿絵本『神曲』は、当時の常識を超えた版の大きさと挿絵の多さでたちまち大評判となります。500年の時を超え、二大天才のコラボともいえるドレの挿画本『神曲』は、多数の場面を克明に可視化した功績は、美術史上画期的であり、現代に通じるヴィジュアル時代の幕開けとなりました。

 

 本展では、100年前に出版された挿画本から29点を展示。地獄篇と煉獄篇を視覚化した作品が比較的多いが、ドレの描く光と慈愛に満ちた天国篇の挿絵を多めに取り上げてみました。抽象的で難解な『神曲』の世界を、精緻に浮かび上がる視覚で感じていただき、歴史を超えた知的な旅に誘えれば幸甚です。

 

 

展覧会の様子

 

2017/8/23(水)より、MUSEE企画展 ギュスターブ・ドレの『神曲』〜ダンテ「神曲」、500年の時を超えた精緻な視覚化〜がスタートしました。銀座レトロギャラリーMUSEE(ミュゼ)で、昨年2016年夏に開催した「アールデコの時代」展に続く、モノトーン作品が埋め尽くされています。

今回展示するのは、約100年前に出版された図版から、主だったエピソードを抜粋、個々に額装したものです。時系列で地獄篇、煉獄篇、天国篇を、ギャラリーの1、2階を、主人公ダンテになった気分で回遊しながら鑑賞いただけます。壮大なドレが描き出す神曲の世界に浸ってください。皆様のご来場をお待ちしております。

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作品リスト

今回のMUSEE企画展では、展示作品を販売しております。どの図版も一点しかご用意がありませんので、先着順となります。

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展示作品(画像)一覧

 

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